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48. 手作りの家作り

手作りの家作り
「家は完成してから引き渡してはいけなんです。80%くらい出来た未完成の状態で引き渡すのが一番いい。いつまでも未完成で、あとは自分達で暮らしながら、好きなテイストに持っていけばいいんです」
それが円谷さんの哲学です。そう言われて改めて“海外インテリアの実例集”などを眺めてみると、なるほど、素敵に見えるインテリアはどれも手作りで、独自の工夫がされたものばかりです。お洒落な照明、ビビットな色の壁、風合いのある布地カバー。そのどれもが手作りでセンスがあり、丁寧に大切に使用されています。日本でそういう雑誌を見て、それに似た既製品を買ってきて、とりあえず飾ってみてもイマイチしっくりこないのは、そこに“手作りで手を加える”という感覚が抜け落ちているからかも知れません。

円谷さんとのお仕事は、まさに“手作りの家作り”です。始めから決まった解答などは用意されていません。だから設計は変更につぐ変更です。“同時並行で進んでいるあちらの家で使用してみたらこうだったので、やっぱりこちらにしましょう”などという提案がどんどん出ます。その時、施主は“だって、もう決まったことじゃない”などとは思わずに、“なるほど、そんな考え方もあったのか”と柔軟に受け止める姿勢を持つことが必要です。

カオリはどちらかと言えば気分屋で、一度決まったことでも、あとからもっと良いと思われる提案がなされたときには、あっさりと考え方を切り替えます。その性格が円谷さんとの打ち合わせでは、とてもプラスに働いたようです。何故なら、円谷さんとの打ち合わせでは、前回、数時間かけてようやく決まったことが、「やっぱりこちらの方がいいですよね?」という円谷さんの一言によって、あっさりと変更になってしまう場面が数多くあったからです。しかし大抵の場合はカオリの予想をはるかに上回った提案をして頂けたので、何度もコロコロと変わる方向性がいつの間にか楽しみの一つとなりました。

もちろん、すべて建築士の言う通りにすれば良いと言っている訳ではありません。もし建築士が提案してきたことに対して、“自分はこう思う”ということがあったら、どんどん意見を出すことです。するとその部分についての進行は止まり、双方が納得するまで、とことん議論が交わされることになります。カオリの感覚では、建築士からの提案A→施主からの提案B→双方で議論→全く違う提案Cというふうに進むのが良い結果がでるプロセスであるように思います。

「これからは若い人を中心に、“家は手作りが一番”という認識がますます高くなるはずです。そうなると規格品を売りにしてきた大手ハウスメーカーはますます仕事がなくなるでしょう。ただ、日本人の悪いところは、工業化を推し進めて職人の仕事を奪っておいて、良い職人がいなくなった頃に“やっぱり手作りがいい”とハタと気がつくことです。その時にはもう良い職人は貴重な存在で、高くて手を出せない。そういう状況を自ら作り出しているんです」
そう指摘する円谷さんは、那須でも10年後にはますます職人の数が減って、“手作りの家作り”が不可能になるのではないかという危機感を抱いています。

良い職人もまた、いつも建築士に言われるがままに仕事をするばかりではありません。時には建築士に対して“こうした方が良いのではないか”という提案をして、建築士もその提案に真摯に耳を傾けます。カオリハウスの建築にあたってもそのような場面が何度もあったと聞いています。

日本は低成長時代に入ったと言われています。生活者レベルでも多くの人々が(経費を抑えるという観点から)、それまでの“浪費”を見直し、電気、ガス、水道などの無駄使いを抑え、自分で作れるものは自分で作る=手作りを見直すという傾向に向かいつつあるようです。手作りをしてみたら市販品よりも数段よくて、快適だということに気がつき、ますます手作りにはまっていくという人も多くなってきているようです。

建築士と職人と施主とのコラボレーションによる“手作りの家作り”は楽しいものです。コラボレーションとは、創作活動で複数の人間が協同作業を行う際に、相互作用がうまく働いて、飛躍的な成果が生まれることを言います。いい家は建築士と職人だけでは作れません。施主が与えるインスピレーションとの協同作業によって、初めて建築士と職人はその力を100%発揮できるのです。そしてそのようにして建築された家は、時々に手を加えられながら、何世代にも渡って受け継がれていくような、素敵な“未完成の家”となるのでしょう。

但し、家作りでは時間の制約もあり、施主がすべてに関わるというのは事実上不可能な場合が多いので、いかに“手作り感覚で楽しめるか”がキーポイントになります。その意味でも、“施主と一緒に考え、施主と一緒に建築を進める”という姿勢を大切にする、円谷さんや職人さん達と一緒に家を建てることができたカオリは、実はとてもラッキーだったのではないかと思う今日この頃なのです。

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